野田地図第五回公演

ローリング・ストーン

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【スタッフ】
作・演出:野田秀樹、美術:堀尾幸男、照明:小川幾雄、衣装:浜井弘治
選曲・効果:高都幸男、振付:謝珠栄、ヘアメイク:高橋功亘
舞台監督:廣田進、制作:西村聖子、プロデューサー:北村明子

【日程】
東京:シアターコクーン 1998.4.4-5.2
大阪:近鉄劇場 1998.5.7-5.13

【キャスト】
安部サダヲ、安藤洋子、一谷真由美、入絵加奈子、植本潤、及森玲子、恩田括
加藤貴子、キムラ緑子、草野徹、佐伯新、坂田今日子、進藤則夫、鈴木浩司
貴山侑哉、多田慶子、田中智寿、田中利花、富樫真、永森英二、西川忠志、野田秀樹
羽野晶紀、平沢智、船田千詠、松村武、水谷誠伺、宮下今日子、矢沢誠、八嶋智人


《観劇当時(1998.5)の感想です。平沢さんに関してではなく舞台そのものについて》

NODA MAP『ローリング・ストーン』を近鉄劇場にて観劇しました。
4回の観劇です。NODA MAPを観るのはこれが初めてです。

野田さんの舞台って私の回りでは合う人と合わない人と極端に別れる雰囲気だ ったので、さあ私はどっちなんだろうとこわごわ(^^;・・・・観たっていうのが正 直なところです。
前から興味はあったので、大阪で『キル』が再演されたとき、チケットとろう かどうしようか迷ったのですが、他のことで気持ちが忙しかったこともあり、 最後に背中を押す力に欠けて観ませんでした。野田さんの舞台って、ひたすら 役者さんが走り回ってて、自分はおいていかれそうで、観ていて疲れる・・と複 数のひとから聞いていたもので、疲れるんなら元気なときじゃないとだめだな ぁと(^^;。要するに当時疲れていたってのが観なかった理由かしら。

今回の『ローリング・ストーン』観劇の決めてになったのは、ミュージカルで 好きな役者さんが出ていたことですが、それはまぁおいといて。私は野田さん の舞台が合うみたいです。間や感性がツボにはまるというのか、何回見ても笑 えるし。笑いのなかでのとくにお気に入りは、ブルービアドとこうた石の「嘘 も八百並べれば・・」の会話、ブリュヌオーとの場面の石の「さすが、高級腕時 計・・・」、イシーリーの「お侍さん、待って・・・・」この3つ。何回聞いても笑 ってしまいます(^o^)。「嘘も八百・・・」のセリフはこれひとつではそれほどで もないですが、その後に続く「どういうことだ?」「さー?」このやりとりと 間が面白さをアップさせるんですね。イシーリー・阿部サダヲさんのひとりボ ケツッコミも最高ですわ(*^^*)

結局初日ソワレと千秋楽、その間に日曜と土曜ソワレ、あわせて4回観 たのですが、退屈しなかったばかりか、観劇回数を重ねるごとに新たな発見も あり、それこそ石が転がり落ちるように深い井戸に吸い込まれていくように、 あの世界のとりこになっていきました。とくに千秋楽の舞台は、もうこれで終 わりという思いもあってボロボロ泣けて。もともと情緒不安定なのですがね〜 わたしって(笑)

今回は野田作品にしてはストーリーもきちんとあって、わかりやすいんだそう ですね?その分、物足りないと思われるかたもいるのかな。でも私のような野 田作品初心者としてはよかったのかもしれません。私にはこれまでとの比較と いう要素はないです(^^;。役者さんも、ミュージカル系の人以外はほとんど知 らないひとばかりです。

作品全体の印象としてはストレートプレイというよりはミュージカルに近い感 じを受けました。私よりももっとミュージカルしか観ない友人も、「ミュージ カル風だったし違和感なく観られた。面白かった。」と申しておりました。ダ ンスもありましたし。身体の動かない役者さんは苦しいだろうな〜(あ、そう いう役者さんは出ない?)と思わせる舞台でした。

初見の席は後ろから4列目のとおーい席でしたので、舞台全体、照明の効果な どがよく見えてよかったですが、最初はたしかにおいていかれそうになりまし た。「な、何?何言ってんの?・・・何やってんの?」って感じでしょうか。言 葉遊びがバンバン入る早口のセリフに、聞き取れな〜いって思ったり。でもそ れはわずかの間で、すぐに入って行けました。

2回、3回と観るうちにセリフが身体に染み入り、見えるものが増えていき、 心に響くものが増えていく。そんな舞台でしたね。 好きな場面はたくさんあります。

全体にくすんだ色合いの舞台装置・衣装ですが、その中でひときわ鮮やかなブ ルーの布。空に浮かびスポットライトを浴びる石、フロムブリュヌオー。「あ ・・・・綺麗だなぁ・・・っ」って、自分も石(野田さん演じる石)になった気分。

こうた石とブリュヌオーの逃避行。壁を斜めに駆け上がる野田さんの軽やかな 美しい身のこなし(思わず声を出しそうになりました)、舞台装置は何も変わ らないのに、牢から山へと一瞬の間に変化させる照明と音響の効果。ああ、な んてシンプルで美しい舞台なんだろう。その後のブリュヌオーとこうた石のや りとり、愛を誓う言葉、お守りをもらったこうた石の言葉。もうすでに私はこ のあたりからハンカチを握りしめずにはいられないのでした。あとの展開を知 ってしまった2回目からはとくに。このあとの展開に関しては言うまでもな く。今も思い返すと切なく、胸が震えるようです。

国境にそびえる石の搭、川べりの美しい景色、ふたつの国の城、いくさに向か う馬上、搭を登り搭のてっぺんに立つブリュヌオー、崩れる搭、積まれる石、 立つ者は誰もいなくなった草原、倒れるブリュヌオー、凍りついた川、石を運 ぶひとたち。いろんな場面でいろんな風景を見、いろんな風を感じました。

やっぱり舞台はいいなぁ。公演期間中、幸せだったなぁ。そう思わせてくれる 舞台だったなぁ。《1998.5.16》


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