ミュージカル

天翔ける風に

〜野田秀樹「贋作・罪と罰」より〜
●内容の詳細とわたしの感想です。内容説明はあくまでも舞台を観たわたしの印象と記憶と解釈によるものです。実際の脚本や演出の意図とは異なるかもしれません。その点をご了承のうえお読みください。ご意見ご感想(苦情でも)がありましたらメールにてお願いします。「わたしが間違ってたら許してね。」…じゃなくって(^^;間違ってることを書いてたらぜひぜひ教えてくださいね!
●参考資料:パンフレット、戯曲「贋作・罪と罰」(野田秀樹著「解散後全劇作」収録)
●場面名はわたしが勝手に作ったものがほとんどです。

ACT1
舞台には緞帳代わりの簾。夏だなぁという気分になる。 開演するとまず花火。音と共に簾に花火が映し出されます。続いて序曲の演奏。(M1 序曲)
大川のほとり
序曲の終わりで簾が上がると、舞台奥にちょっと傾斜のついた、橋の欄干をイメージするセット。ホリゾントも簾で覆われており、ちょっと暗いイメージ。舞台を取り囲むように下手側は階段(途中踊り場あり)上手側は上から4段くらいの階段とその下はけっこう急なスロープになっています。舞台中央は大川という設定。きらきらする素材の布がしかれた舞台の床は照明に照らされ、きらめく水面を表して、綺麗です
上手スロープのところに英(香寿たつき)がひとりたたずみ、歌います。
(M2 大川の向こう/英)

英の独白。「この世は天と地の戦場。世の中を変えるために誰かが何かをしなくては・・・!誰かがこの世を救わなければ!」
その言葉とともに不穏な雰囲気となり「ええじゃないか・・・ええじゃないか・・・」と群集の声が聞こえてくると、川の水面が波打ち、高まる声と音楽とともに、川の中から群集が現れます。
貧困にあえぎ救いを求める群集達の苦しみが歌とダンスで表現されます。いきなりものすごいダンスが繰り広げられるので、初見のときはあまりの迫力に圧倒され呆然としてしまった。福永吉洋さんを笠原さんと福永たかひろさんでリフトするところもありました。群集の歌に英のソロがかぶり、ここで才谷(畠中洋)、聞太(石原慎一)、志士ヤマガタ(平沢智)の3人が順に現われコーラスに加わります。
(M3 天と地の戦場で/群集、英、才谷、聞太、ヤマガタ)

実は、センターのアンサンブルの方々(次の場面のおみつ役の法月さん以外12人全員出演だと思う)のダンスに圧倒されてて、初見のとき、ヤマガタが出てきたの知りませんでした(^^;;気がついたらもういた(笑)
才谷は上手上段から走り出て上段のセンターに来るのでわかりやすいんですが、ヤマガタは同じく上手上段から出て、そのまま上手スロープのところで歌ってます。で、そのまま群集がはけるときに一緒に上手にはけちゃうんです。動きが少ないんで・・・そっちを観ないと気がつかなかったんですが、上手側で観たとき、このときのヤマガタさんの視線がまっすぐこっちで、ど、どうしよう!?状態(笑)ずっと目離せなかった・・・。ちなみに聞太・石原さん、コーラスの最後に叫びのような声でしめるのがこの人。ここ、好き(^^)
おみつの家
群集に混じって翻弄されていた英は、ひとりになって金貸しの老婆おみつ(法月志都子)の家を訪ねます。セットの引き戸と空間、照明をうまく使って家への出入りを表現しています。
英はおみつに一月前に入れた質草は期限を3日過ぎたから流すといわれ、今日持ってきた父親の形見の小刀もさんざん値切られる。
英はなにか緊張した風で落ち着かない。英はおみつが夕方はひとりでいることを確認し(でも妹のおつばさんがいるのかどうかは教えてもらえなかった)3日後くらいにまた質草、今度は銀の煙草入れを持ってくると言って去ります。
英とおみつが会話をしているときに、舞台奥の引き戸の向うを「ええじゃないか」踊りを踊りながら通り過ぎる4〜5人の人達がいますが、この中に平沢さんと福井さんがいます。他はたぶん中田さんは見えたような気がするんですけれど確信するまでには至らず。でもたぶん、中田さん、林さん、小嶋さんなんじゃないかと思います。
この場面、風鈴が鳴り、「大川の風はこの長屋にも夏を運んでくるんですね」っていう英の台詞が印象的で、町で風鈴が鳴るのを聞くたびに耳に甦ります。
酒場
おみつの家を逃げるように出、「わたしは何をしようとしているのかしら・・・」とひとりごちる英。そのまま、場面は酒場での若者達の会話となります。上手前面に椅子を持って現れる若者達。ここは笠原さんも含めた男性アンサンブル7人全員と、男装の宮さん、長尾さんが混じって9人、それぞれ思い思いに酔っ払っています。それにちょっと離れて才谷、英です。
若者(福永吉洋)が中心になって歌います。金貸しのばあさんを殺しても良心の呵責を感じない。ひとりの悪人を殺し、万の善人を救う。それは正義だ、みたいな内容の演説をします。ここで福永さんとかけあいで歌うのは笠原さん。正義のために万人の益のために、生きているだけで害のあるような老婆を殺してもかまわない!と意気揚々と語る若者達。
(M4 正義という名のもとに/若者達)

才谷が若者達に「自分でその老婆を殺す気はあるのか?」と問いかけたことで「正義のために論じたまでだ。」「自分でやる気がないなら正義など論じるな。」「才谷、お前酔ってるな?」「貴様こそ議論に酔ってるんだ。」みたいなやりとりがあり、乱闘になります。浮かない顔の英は大騒ぎの中、ひとりその場を離れていきます。
大川のほとりで
歩くうち、下手壇上、川の側(だと思うのだけど井戸端かも?)で女性達が声高に噂話をしているのに行き会う。聞くともなしに聞いてしまう英だが、女性達は金貸しのおみつとその妹おつばの噂話をしていた。おみつは強欲で嫌なやつだが、妹のおつばさんはよくできた人で真面目に働いては稼ぎを全部姉にとられてしまっているらしい。この噂をしている女性達は中田さん、林さん、小嶋さんで、福井さんと顔をほっかむりで隠した平沢さんもいます。この人達、はじめは洗濯してるのかと思ってたんですが、違うみたいです。薪を割ったり、野菜を洗ったりのような台所作業をやってるんだと思います。平沢さんは基本的に何もしてません。ぺこぺこお辞儀してたりしますね。たぶんおばあさんの役なんだと思います。

彼女達が去って行ったあとに忘れられた斧。英はそれを拾い、ある決意を胸に金貸しのおみつのところへ向います
おみつの家・犯行
場面変わっておみつの家に向う途中、上手スロープにスポット当たると、そこで左官屋が二人、壁を塗っています。リズミカルに壁を塗るこの左官屋さんは仁助・萩原好峰さんと福永吉洋さんです。
英は彼らに見つからないように階段を上り(実際には下りてますが(^^;上がっているという設定)、おみつの家の扉を叩きます。
英は質草を持ってきたと言い、容易にほどけないくらい強くゆわえつけた包みをおみつに渡し、おみつがほどこうと躍起になっている後ろで斧をかまえる。そして振り下ろす。また振り下ろす
このとき、舞台前面を下手から上手に向かって5〜6人の人が黙って踊りながら通るのですが、この中に平沢さんと福井さんがいます。この二人以外の人は、確信はないですが、中田さん、小嶋さん、宮さん、長尾さんでは?この人たちは英が斧を振り下ろした瞬間に、客席に向かって赤い布を投げます。暗い舞台に赤い照明が落ち、不気味です。

英が死んだおみつから金庫(?)の鍵をとり物色しているうちに、妹のおつば(たぶん林綾子さんだと思う)が帰ってきてしまいます。やむなくおつばをも手にかける英。 そのとき、舞台前面を移動していた踊る人達は上手端のほうへ至っており、やはり赤い布を投げます。

英は逃げなくちゃ!逃げなくちゃ!と荷物をまとめ家を出ようとしますが、そうこうしているうちに、階段を上がってくる二人の男(幸村吉也、福永たかひろ)の声。「きっとここへ来る」と確信し戦慄する英だか、今出て行ったら見つかってしまう。震える手で扉を押さえ、見つかる恐怖に耐える英。ふたりは扉が開かないのを不審に思い、内側から掛け金がかかってるみたいだし、いないはずはない。おかしい…と庭番を呼びに行くことにします。相棒を行かせた男(幸村吉也)は、しばらくひとりでその場にいるのですが、なんともぞっとする雰囲気にたまらず相棒を追いかけていきます。

その隙に英は家を抜け出しますが、途中には左官屋が壁を塗っている。ところが、うまいタイミングでちょうど一息ついた左官屋たちは食事をとりに出かけます。英は慌てて逃げようとしますが、荷物を落としてしまい、慌てて拾ったもののかんざしがひとつ取り残されます。左官屋のひとり、仁助(萩原好峰)は道具をほったらかしてたことを思いだし、片付けに戻ってきますが、そこには英が落としていったかんざしが。仁助はかんざしを拾ってネコババします。

さて、庭番(内田圭)を連れて戻ってきた先の二人の男は、扉に掛け金などかかってなく、入ってみるとおみつとおつばが殺されているのを発見して驚きますが、驚いて去る時にもさりげなくアクション入ってます。
おみつ殺しの瓦版
さて、ちょっと前から二人が去るまで下手暗闇で待機していた瓦版屋(川本昭彦)がとんぼを切りつつセンターに華々しく登場。「号外でーす!」とおみつ殺しの号外を手に歌います。
(M6 おみつ殺しの瓦版/瓦版屋)

町の人が次々現れては、号外を手に大騒ぎをしますが、まっぷたつに割れる傘をかぶっているのが福永さん。笠原さんも町人で出てました。他には中田さん、長尾さん、小嶋さん、宮さん、かな(ちょっと自信なし)。後半にはさっきおみつ役で死んでた(^^;法月さんも町人で出てきていました。みんなで「他人の不幸は蜜の味」とワイドショー的な興味を歌います。
英の部屋
暗転のあと、明るくなると、上手スロープに英の部屋。英はぐったりと寝ています。そこへ飛脚(なのか?)(長尾純子)が英に警察からの呼出状を運んでくる。
なかなか出て来ない英に飛脚は、ぶつぶつひとり言を言ってますが、とつぜん英が出てきて驚く。(このとき英は上着を脱いでてブラウス姿なんですが、香寿さんのウエストが細いのに驚く…)
警察
警察からの呼び出し。英はあのことかと怯えながら警察に出頭する。警察署の入口には門番(?)福永吉洋さんがいて、「三条英、参上!」とかいうギャグを言います(^^;
威圧的な目付護之進(笠原竜司)が英に絡んでいる間に都司之助(立川三貴)が現れ、英は手続きをして帰ろうとするが、老婆おみつの殺害事件で発見者であるふたり(福永たかひろ、幸村吉也)が疑われて取り調べを受けているところに行き会う。
「お前が殺した」と責められる二人。警察官の内田さんと目付護之進・笠原さん、警察の人達(川本さん、福永吉洋さん、だけだったかなぁ?)と、発見者で容疑者のふたりのかけあいの歌。警察の場面はついたてがうまく場面展開に使われます。
(M7 取り調べ/警察の人達、容疑者達)

都は掛け金がかかっているはずのなかった扉が開かなかったことが重要なポイントだと、真髄をついた推理を展開し、聞いているうちに、英は倒れてしまう。英の心に「捜索だ!捜索が始まるわ!」と怯えが広がります。
暗い舞台に人魂のような青い光が振りまわされる中で英が踊ります。光に翻弄され、追いつめられる英の心境がダンスで表現されています。暗転。
再び英の部屋・才谷と英
明るくなると上手スロープの英の部屋。英が気がつくと才谷がそばにいて、「よく気がついたなぁ」と4日間寝たままだったと教えてくれる。才谷はずっとついていて、飲まず食わずの英に茶をさじで飲ましたと言う。

そうこうしているうちにまた飛脚が現れ、英に母親から送金があったから署名して受け取れと言う。
英はいらないと言うが、才谷は飛脚の長尾さんも巻き込んでなんとかして受け取らせようとする。ここのやりとり、なかなか笑えます。才谷があんまりうるさいので署名して受け取る英。
金のことばかり言う才谷にあきれる英だが、才谷は金は大切だ、赤い血を流すより黒い金を流すほうが安全だと歌います。
(M9 金の切れ目が人生の切れ目/才谷)
英と才谷のコミカルな楽しいナンバー。才谷は英を回したり鏡のように向かい合って同じ動きをしたり背中合わせになったり、肩すかしにあって才谷が転んだり、リズミカルに動きつつ歌います。洗濯物をほす女性達(法月志都子、林綾子、小嶋亜衣、宮菜穂子)がコーラスをつけたり、洗濯物をたたくパーカッションを入れます。
ここで才谷は自分の思想、幕府を倒すことが今の日本にとってもっとも必要だと英に話します。めったなことを言うんじゃない!と才谷の口を押さえる英。ガシって感じで才谷の肩を抱いて部屋に連れ戻す英、たくましいです(笑)
ここで、倒幕には多くの血が流されるんじゃないのかと言う英の問いに才谷は、そうかもしれんなぁ…まずいか?と答えますが、「理想のために人を殺すことは起こりうると思う」と、英も言います。
母・清と妹・智
さて、深刻な話はおいといて、英と才谷がじゃれあって(^^;おせんべいなどを食べようとしていると、獅子舞の獅子のようなものにまぎれて母、清(中田由記)と妹の智(伊東恵里)が登場。ふたりのいきなりの登場に動揺する英。
才谷は二人に挨拶をするために正座するのですが、スロープなのでずるずると座ったまま滑り落ちていき、智がひざを支えてたりしてました。(ちょっと笑えます(^^;)
母はあのお金は智が求婚されたので、結納金の一部だという。相手は溜水石右衛門、大地主でお金持ちだけど、女房を狂い殺したなどと悪い噂がたえない男
英は智に「何でも人に決めてもらう女になってどうするの!断りの手紙を書きなさい」と言いますが、智は、わたしは姉さんの役にたちたい。愛するものの故郷になりたい…と歌います。疲れたときに振り返ればいつもそこにいる、母のようにと。
(M10 故郷になりたい/智)

そんな智に対し何も言わず英は走り去るが、いつのまにかそばにいて話を聞いていた才谷は智に「明日はきっと考えなおしますよ」と慰めを言うが、智はきっとねえさんは明日も同じことを言うわ。わたしのためにと答えます。
町で。都司之助と才谷
智が去りひとりになった才谷。「ゾーリ屋さん」と声をかける人あり。前場面からほしてあった洗濯物を小嶋さん(ちょっと記憶に自信なし。ひょっとしたら林さん?)が片づけるとその裏から都司之助が登場する。
都は才谷から討幕派の情報、主に坂本竜馬の潜伏情報を聞き出そうとしている。才谷は都に竜馬が江戸に来て変名を使い幕府塾生になりすましていると教える。都は去り際、おみつのところへ英が小刀を質入れしていたことを才谷に告げます。
ふたりが話している間に、町人が入れ替わり立ち代り出てきては去って行きます。往来を表してるんでしょうね。萩原さんがお餅屋さん(だと思う…。ぶつかって落としたお餅を拾っているように見えた)、幸村さんが風車売り、福永たかひろさんはお面売り。川本さんと法月さんの甘い雰囲気のカップルも。会話をしている才谷と都にいいタイミングでちょこちょこと絡みます。けっこうこの町人達が気になって、才谷と都のことあんまり見てないかも(^^;;
町で。溜水と才谷
都が去ってひとりになった才谷にすれ違いざまに「さ・か・も・と」と声をかける男あり。才谷は人違いでしょうと去ろうとするが、その男、溜水(福井貴一)は才谷の正体を知っているようだ。そのうえで才谷に大金を渡そうとする。家賃はただで家も貸そうと言う。なぜだ?と問う才谷に溜水は「退屈ですよ。」と歌う。江戸は大きな滝のようでただ見ているだけでは退屈だ、この退屈を覆す=倒幕の主役はあなたです。坂本さん。そしてわたし=溜水は裏方としてお膳立てをしてさしあげると。
(M11 人生という名の芝居/溜水)
舞台前面が青い照明によって川となり、長尾純子さんが船頭を務める舟に乗ってふたりは会話(歌ですが)します。溜水・福井さんの淡々とした歌ですが、うまいなぁとうならせられますね。
大川のほとり
前場面から才谷はそのまま残り、下手から英が現れて会話します。それでどう断ったんだ?という問いに才谷は半年ほどやっかいなることにしたと答えます。それじゃ断ってないだろうと責める英に、才谷は溜水は自分を坂本竜馬と間違ってるんだと説明します。 本物の竜馬が現れたらどうするんだという英の問いに才谷は、本物の竜馬が現れたときに匿うのにこれ以上安全なところはないと答えます。嘘つけ。家賃がただだからだと決めつける英に、否定はできない才谷。

真面目でかたくなな英に、才谷は「英、たまには笑えよ」と言います。「何故だ」と答える英。
笑うのに理由はない、目の前の大川の景色を見て少しは口調が優しくなってもいいと思うと才谷は言うが、それには答えず英は才谷に緑が目に沁みるか?と問う。

この場面、センターに深みのある青い照明が当たり、ホントに川にいるみたいなんです。目に沁みる緑の景色が見えるようでまぶしい気がする場面です。(この場面で釣りをしている人が内田さん、どじょうすくいをしている人は福永吉洋さんです。福永さんに才谷の投げた石が当たるところでは笑いをとってます。)

才谷の目には痛いくらいに岸辺の緑は目に沁みる。なのに、英の目には緑は沁みない。英は以前はこの景色に抱かれている気がしたという。風は景色が伸ばした手だった。(ここで才谷は妄想にもだえますが(笑)、ま、それはいいでしょう。)だけど今は違う。風は密告者
秘密を持つものの心には風もそのように吹くかもしれぬが、新しい時代が来れば、もう一度風は君の頬をなでる。(ここで才谷が言う秘密というのは倒幕の志のことですよね)もう少しの辛抱だと才谷は励まします。そして才谷が歌い始め、途中から英も一緒に歌います。
(M12 大川の向こう〜遠い日々/才谷、英)
だけど、英は最後まで歌えない。英は新しい時代が来ても自分にはやすらぎは訪れないと思う。自分はもう才谷とは違う。英は、今まで自分が間違っているなんて思ったことはなかった。女だてらに幕府の役人を目指し、女である不自由をのりこえ、いつか訪れる千年の王国を心に抱いて。理想が世界を変える。そのためなら、なにをしてもいいと…。

そう言えば…と才谷は都から聞いた小刀の質入のことを思いだし、英に聞きますが、英は動揺します。都司之助が老婆殺しの件で自分を疑っているにちがいない、もう戻れないかもしれない…!何も聞こえない、音が崩れて行く…!
世界が音をたてて崩れていくというのは嘘ね。世界が崩れるときは音がまず崩れていくのよ…!という英の叫び。
刺客
と、そのときいきなり刺客が現れ、二人を襲う。刺客は男性アンサンブル全員+1人の8人だったと思います。
「こいつを坂本竜馬と知ってのことか!?」などと英が言うもんだから、刺客はなおもエキサイトしてしまう。才谷にお前があんなことを言うからだと責められ反省した(?)英は才谷を背後にかばって「わたしのほうが剣はたつ!」とひとりで刺客の相手をする。 英、相当に剣の腕が立つらしい。斬られ役の方々が圧倒的にうまいとはいうものの、迫力の立ちまわり。才谷もちょっとだけ加勢してました。
英にやられて宙返りをしている人、誰かな?と思ったら幸村さんでした。高いところから飛び降りているのも幸村さん。忍者みたいな人だ。
英の強さにかなわぬと見て刺客は退散していきますが、逃げ遅れて隠れていた刺客がひとり。覆面を取ってみれば驚いたことに、それは20年前に死んだと聞かされていた英の父、聞太左衛門(石原慎一)であった
再会した父子の思いを英、聞太、智がそれぞれ歌います。途中から3重唱となります。
(M14 再会/英、聞太、智)
歌としては聞きほれる素晴らしいナンバーなのですが、初見のときは、いきなり芝居をほったらかして(って感じがした)超シリアスになるので、ちょっと面食らいました。今ふと思ったんですが、ここで聞太がなぜ才谷を狙う刺客だったのか、「贋作・罪と罰」を知らない人は事情わかったんでしょうか?
理想に破れ、酒におぼれた暮らしをして生活に困った父はお金をもらって人を殺める仕事に手を染めようとした。実際にはこれがはじめてで未遂に終わったわけだけど…。そんな父の姿、それを知った妹の嘆く姿。考えもなく人を殺すことはいけない…英の心におちる暗い陰。
仁助逮捕の瓦版
さてさて。場面変わって舞台上段では、老婆殺しの犯人として、かんざしを拾った左官屋仁助が目付護之進に逮捕される場面が歌舞伎調で繰り広げられます。またまた登場、瓦版屋・川本さん。町人達は仁助が愛人とのもつれで、人違いをしておみつとおつばを殺したんじゃないかとあることないこと言い始めます。最後に「…かな?」と首をかしげつつ町人達は去っていきます。ここは目付の笠原さんと仁助の萩原さんを含めアンサンブル全員登場です。
(M15A 仁助逮捕の瓦版/瓦版屋、町人)
幻よ
仁助逮捕のことを知った英は、「幻よ!かりそめの恐怖よ、いざさらばだわ!」と、心の平安を取り戻し、喜びを歌う。(M15B 幻よ/英)
この場面は好きな場面です。暗い舞台に色とりどりの灯篭(?)を持って踊る人達。その前で踊り狂う(という表現があっていると思うが…)英。ここの英の独白も好きです。「これはわたしの心臓の音よね?わたしはあのばあさんと死ななかったんだわ!」そしてなんとも言えぬ胸の底からふりしぼるような笑い声。(印象に残る…)
パーティ
一瞬で場面が切り替わり、幕府主催のパーティ会場。前場面で登場した灯篭が舞台を囲む階段やスロープに置かれ、なんとなくパーティ会場って雰囲気になっているところがすごい。
才谷と都が坂本の情報について会話をしている。
その後ろでたる酒を囲んでいる塾生達。萩原さん、川本さん、福永たかひろさん、なんかよく川本さんが叩かれていたような気がしますが、どういう会話がされてたんでしょうね。気になって毎回見てしまってました(^^;;あとで幸村さんと内田さんが現れてました。

そして、笑い声とともに奥から英が現れる。ここで英と一緒に来るのが幸村さんです。
ここでは質入れしていた小刀のことから、都と英の息詰まるかけひきが繰り広げられます。
都は英の書いた論文を読んだといい、その中から読み取れる思想、人の命を犠牲にする以外に天才がそのなすべきことをなしえないとしたら「彼らはひそかに良心の声に従い、血を踏み越える権利を自分に与える
都は英がもしかしたらその天才であり、その思想のためにはたとえば「殺して盗む」というようなことをするかもしれないですな?と問います。
英はそれはありえますねといいつつ「踏み越えたとしても、あなたには言わないわ!」と答えます。
質入れに行ったとき左官屋を見ましたか?という都のさりげないアリバイ調べにも、冷静に答えを返す英。火花散る感じの緊迫感のある場面です。
ここで後ろでは階段やスロープに並んでいた灯篭が片付けられつつありますが(こういうやり方もうまいなと思う)最後にふたり(川本さんと萩原さんだったと思う…)が灯篭を持ったまま残って、ストップモーションだったかスローモーションだったか…とにかくなんとも言えぬ雰囲気を作っていました。
ええじゃないか・志士ヤマガタ登場
さて、町ではええじゃないか踊りが流行り始めている。「なんでもかんでもええじゃないか〜」という福永吉洋さんのソロからこの場面が始まると、わたしはなぜか(^^;;ドキドキ…。(M16 ええじゃないか/町人)
踊る群衆に紛れ、赤い羽織に身を隠した人がセンターに後ろ向きに現れる。こちらを振り向くと、それはストライプの袴をはいて上は変形ガクランのような上着を着た人、志士ヤマガタ(平沢智)。群衆に混じっていた志士達も本来の姿を現します。この「ええじゃないか」踊りの騒ぎを利用して暴徒をひきつれ江戸城へ乗り込み、将軍の首をとる。新しい時代を開くのだと、志士ヤマガタを中心とした志士達の歌。
(M18 乱舞の陰に/志士ヤマガタ、志士達)
このヤマガタさん、ソロ歌は他のうますぎるメインキャストの人達に比べてちょっと苦しいのですが、勢いを感じます。なんかむちゃむちゃカッコイイ。初見のとき、あまりのカッコよさに腰くだけになりました(^^;;
それと、「踊れ〜踊れ〜夜があけるまで〜」と歌いながらくるくるくるくる回転して、あげくに下手袖にパッと羽織を投げるのですが、さりげなくやってるけどちょっとすごいんじゃないでしょうか…。歌いつつ尋常でない速さで回転しつつ、場所を外さず羽織を投げ捨てる。他のところでもそうなんですが、なんかすごいことをあんまり普通そうにやるから、観る人にそのすごさがわからないんじゃないかと…思ったりします(^^;;

志士達のナンバーが一段落すると、上手スロープのところで、溜水が聞太に人集めの仕事を依頼する場面があります。将軍様からの仕事だという溜水に、聞太はすっかり有頂天になります。

下手側に集まっている志士達は、長い眠りから覚めよ、今戦いのときが始まると意気盛んに歌います。ここ、下手側にいる志士達が全員上手側客席に向って歌うので、上手で観た時は息がとまりそうになりました。すごい迫力で・・・。動揺のあまりその前後のことをあまりよく覚えてない(^^;
結納の日。智の迷い
勢いに乗った志士達が舞台奥へ走り去ると、セット上段に日傘をさした智。うってかわって静かな雰囲気。智は求婚者の溜水のことを思い、悪い噂のあるあの人を愛せるかしら…と歌う。(M19 迷い/智)

さて、溜水が才谷に貸した家にて清は溜水に会う為に酒などのもてなしの用意をしている。そこへ、聞太左衛門が来て、清と智に定職についたと報告する。 将軍様じきじきの仕事だと(聞太はそう思い込んでいる)聞いて、清と智は喜びます。英と才谷が現れ、英は溜水に会うために溜水に借りた部屋を使うなんて!と怒るが才谷は会ってみなきゃわからないじゃないかと諭す。智は「わたし達、今幸せなのよ」と英にも一緒にいるように言うが、英はもう自分はそこには入れないのよと言って部屋を出て行き、才谷が英の後を追って行きます。
そこへ、ちょうど溜水が入ってきますが、溜水はちょっと前から来ていて、英が出て行くのを陰から見ていたようす。さて、溜水と顔を合わせた聞太は驚く。自分に仕事を世話してくれた人ではないか。
結婚をためらっているという智に溜水は、あなたに夢中ですと言いながらも、結婚をしても貞操は守れないと告げます。ショックを受けた清はやっぱり英は正しかったと、うちには英っていう優秀な娘がいるんだから溜水の世話にはならないと言いはりますが、溜水はその英について思わせぶりなことを言います。おねえさんは何かの犯罪に抜き差しならぬ形で関わりを持っていると

そのとき、上段上手から英が現れ、スローモーションの動きで歩いてくる。英はひとり歌います。(M20 風よ、もしも/英)
才谷が追い付いてきて、英に一冊の本を渡します。英は読む。「覆された宝石のような朝、何人か戸口にて誰かとささやく。それは神の生誕の日。」
才谷は、それは音だ。考えるのをやめて音を感じろと言います。そしてそれは「借り物の言葉さ」と。それは、おつばさんに借りたまま返せなくなった詩集。
英はそれを聞いて決心する。才谷に、わたしを見捨てろ、だけど家族のもとにいてやってくれと頼み、「もしもわたしが帰ってこなければ、いっさいのことがひとりであなたの耳に入る。帰ってこれたら、そのときは誰がおつばさんを殺したか、言うわ。」と告げ、警察署に向います。
警察署
ついたてで現される警察署の都の部屋。小刀の書類を持ってきたという英。老婆殺しに関するふたりの駆け引き。のらりくらりと掴み所のない都のやり方に英は苛立ち、逮捕するか今すぐ帰すかどちらかにして!と迫ります。なんとかとりなす都だが、そんなとき、容疑者の仁助がおみつ殺しを自白すると騒ぎ出す。自分がやったんだと言い張る仁助。都も英も動揺を隠しきれない。ふたりとも手が震えている
果てしない道を
仁助が自白したことで、先の希望を見出した英は、これで何もかも曖昧になった。あたしの音を取り戻すのよ!わたしは理想のために殺したの!逃げ延びてやるわ!大川の彼の岸辺には燃えたつ緑が待ってるのよ!と叫び、そのまま1幕ラストシーン、全員が登場し、主要キャストでそれぞれの思いを、歌いつないでいきます。(M21 果てしない道を/英、才谷、ヤマガタ、智、聞太、溜水、都、志士達)
英をセンターに、背後にはヤマガタと志士達。他の人達は段上にいたと思います。最後は志士達が剣を構えてジャンプし振り下ろす。この瞬間に幕(簾)が下ります。ドキドキする幕切れです。初見のときは腰がくだけててすぐ立ちあがれなかったわたし(笑)
ACT2へ。

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