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AKURO

AKURO 悪路
●内容の詳細とわたしの感想です。内容説明はあくまでも舞台を観たわたしの印象と記憶と解釈によるものです。実際の脚本や演出の意図とは異なるかもしれません。その点をご了承のうえお読みください。ご意見ご感想(苦情でも)がありましたらメールにてお願いします。間違ってることを書いてたらぜひぜひ教えてくださいね!
●参考資料:パンフレット、高橋克彦著「火怨」


二幕

御伽草子III【悪路王の最期】


和太鼓演奏から始まります。すごいですよね。最初は、へぇぇ、若手キャストの中に 和太鼓得意な人がいるのね、それにしてもすごいわ〜!とか思っていましたが、、、 失礼しました。和太鼓奏者の高篠雅也さんです。

高篠さんが退場すると、面をつけた若手のみなさんが客席から登場して、ダン スとアクション。このとき、すでに本舞台にいて、すっごいきれいなダンスを踊って いる人がいて、誰だろうと面をとるところをみていたら中塚皓平さんでした。

さて、ひきつづいて場面はみたび御伽草子。歌い手さんは1幕最初と同じ、吉野さん西村さん川本さんの三人。ここでは、鈴鹿御前の導きで田村丸が悪 路王を攻め、鬼たちも、最後には悪路王も退治されるというお話が描かれます。全員 がそうかは覚えてないのでわからないのですが、少なくとも赤頭イサシコ(駒田さ ん)、大嶽丸オタケ(平澤さん)のやられ方が、本編最後の立ち回りでのやられ方 と同じ絵になってます。

鬼達が全員やられてしまって、舞台前面の階段のところで倒れてしまうと、センター 奥の赤い照明のなかに悪路王(吉野さん)が現れ、田村丸坂上田村麻呂(今さん)との戦いが 表現されます。スローモーションの動きによる殺陣と悪路王の最期の言葉。これはラストの立ち回りの場面とリンクしています。
悪路王がやられてしまってからは、倒れていた鬼たちが起き上がって去っていき、セットが閉まってからわりとすぐにまた開いて、そこから、オタケを中心とした蝦夷たちが出てきます(かっこいい…)。オタケたちが上手側に移動したあと、イサシコがセンターに登場して、手からぱっと火をともすマジックを見せます。
そして、「生まれ変わり、死に変わり〜」のコーラスにのせて、若手さんたちに掲げられた高麿(坂元さん)が部屋に寝かされる場面へと転換。

エミシの誇り

高麿が部屋で寝ている場面。赤毛イサシコが高麿の枕もとに座っています。
起きてびっくりする高麿ですが、高麿は鉄の谷のことを誰にも言わず、結果的にはイサシコの申し出を聞き入れたわけ で、イサシコは高麿であれば大和による蝦夷への迫害を終わらせることができるので はないかと見込んで、話をしにきたのでした。ここでの会話はなかなかテンポがよく て面白いのです。

ここでイサシコの口から「国は土地ではない。そこの住む人の心にある」という、謝 先生がこの作品を作ることになった根底をなす重要な台詞が語られます。でも直後に イサシコさん、「日高見の大地はわれらの命〜」って歌うんです。ちょいまち、 さっき土地ではないって言ってたんじゃないのかっとツッコミどころです。
いやいや、この歌自体は感動的なんですよ。なので細かいことは置いといて。イサシ コは、「貧しさには耐えられるが、さげすまれ、誇りを奪われては生きていけない。 蝦夷は奴隷の道を選ばない。蝦夷の誇りを奪わないでくれ」と高麿に訴えます。

イサシコの話(歌)の途中、上手側にオタケを中心とする蝦夷たちが登場します。山の中を探索してる様子(かっこいいよ〜)。「天翔ける風に」の聞太探索の場面をちょっと彷彿とさせる感じ。

そんな話をしているとき、源太(西村さん)が来て言うには、不審な蝦夷の女を捕らえた と。しかもその女は盲目だというのである。盲目の女の蝦夷?アケシ!?高麿は慌て てすっ飛んでいくのでした。イサシコは複雑な表情…。

架け橋

高麿がかけつけると、門番の兵士にひきたてられ殴られているアケシ(彩輝さん)の姿が。
「この人は私の恩人だ!私を訪ねてきたんだ」と兵士たちを追い払う高麿だが、アケ シは「あんたを信じた私がバカだった」「所詮、大和と蝦夷は違う生き物だから、共 に生きていくことなどできない」とかたくなな態度。
訪ねて来いというから、盲目の身でかぼそい頼みの綱にすがって訪ねて来たのにいき なり殴られりゃ当然ですね。

源太に水を持ってきてくれと頼み、アケシとふたりになると、高麿は一所懸命アケシ をなだめ、ひたむきに力づけようとします。大和と蝦夷は違う生き物だなんてそんな ことはない。同じ人間、しかも田村麻呂とアケシとの間の姫は大和でも蝦夷でもな い、新しい人、架け橋じゃないかと。高麿は「田村麻呂とアケシは愛し合って夫婦に なり姫をもうけたではないか」と言いますが、そうとは限らないですよね。。田村麻 呂は権力者であり、アケシは奴隷の女だったわけだから。綺麗だから、田村麻呂の目 にとまったんでしょうけれど。
実際のところはわかりませんが。でも最初にみちのくの大地と蝦夷の暮らしについて語る田村麻呂は本当にこの地を愛しているように見えました。 少なくとも、高麿はまっすぐに田村麻呂のことも信じているから、なぐさめの詭弁な のではなく、本気でそう思い本気でそう言ってるのだろう。
アケシの姫の話をしているときに、センター奥には、アケシの姫(丹きらりちゃん) が現れ手をふりながら「ははうえー・・・」
丹きらりちゃんはこれだけの出演ですが、ある意味ものすごく印象的な女優さんです ね。

少しおちついたアケシをお姫様だっこ(すごい!)で連れていく高麿。
入れ替わるように源太が水を持って現れるのですが、高麿はアケシを抱いて去ってし まったので、しょうがなく自分で飲む源太。
源太は、高麿がアケシを助けるのを、「なんだなんだいったいどうしたんだ?」って 目でじろじろ見ていて高麿に「水を」と言われて慌ててとんでいくんですが、このへ んから、「なんでご主人様は蝦夷の女と?いったい俺のご主人様は何をやっているん だろう?でも、主人のすることに文句つけられないし…」って気持ちになっていった のかなぁと思ったりします。で、結局ここは、「ま、いいか。どうせ俺、小者だし …」ってところかなあ。

ここで謎の若者(吉野さん)が現れて…歌はあったかな?なかったような気がする。 謎の若者が現れてダンス、反対側に鹿の精霊(藤森さん)が現れ、刀を持ってのダンス。 ふたりがセンターですれ違うときに、刀が鹿の精霊から若者に渡されます。
これって、アラハバキの使い、鹿の精霊が蝦夷に「刀を持て。戦うときが来た。」と 伝えているわけですよね? 深読みですか?でも、でなければ、精霊が刀を持って出てくる意味ないと思うの。 そして謎の若者は、自らの思いを高麿にたくし、蝦夷たちにたくすわけ だから…


場面変わって、山の中(と、思われる)。蝦夷たち(アラカオ、キクリ、ヤイラ、ク スコ、オタケ)が次々と登場。
(うう、かっこいい。。)
高麿が逃げて、アケシがいなくなって、その行方を探していたのだけど、なんとアケ シは高麿の屋敷にいることがわかり、いったいどういうことだ!?と話し合う蝦夷た ち。
ヤイラ、キクリ、アラカオの3人が、絶妙なボケ・ツッコミ会話を繰り広げ、ここは 蝦夷たちの場面で唯一、笑える場面となってます。うまいよなぁ。
方言で何言ってるのかわからないアラカオ(平野さん)に、客席も「何?わからん!」と思うと、 ヤイラ(川本さん)が客席の心を代弁するかのように「??」。と思ったら、キクリ (福永さん)が通訳。「ああ!」とみな納得。
と、思ったら、もう一度アラカオがわからんことを言う。客席&ヤイラ「??」。キ クリが通訳。
これまた絶妙のタイミングで、「お前が何言ってっかわかんねえんだよっ」とアラカ オにツッコミを入れるヤイラ。
この3人の間が絶妙にうまいのだ。さすがだ。何回観ても笑ってしまう。

このやりとりの間も、オタケはシリアスをつらぬいてます(これもすごいと思う)。 黙ってみんなの話を聞きながら考え込むオタケ。
同じくシリアス担当のクスコ(武智さん)に「どうする?」と問われたオタケは
「ア ケシは俺の妹だ。俺が始末をつける。」
(ううう。かっこいい…)
ここでの蝦夷たちはアケシと高麿の間に何があったか知らなくて、さきほどの議論 (?)の結果、アケシは高麿にたぶらかされたという結論に至っている。
アケシは、かつて田村麻呂と通じ、結果的にアテルイを死においやった。今回もあの 大和の男を逃がし、自分もその男のもとに身を寄せている。たとえ、アケシがあいつ にだまされて罠にかけられたのだとしても、再び大和と通じたことに違いはない。
一度は許した。だが二度の裏切りは…
アケシは始末する。あの大和の男と一緒に。

そういうオタケに、クスコは「一人じゃ危ない。俺も行こう」と言うのですが、オタ ケは「一人でいい。お前たちは谷に戻れ」と言い置いて、静かにすっと立ち去ってい きます。(この立ち去り方がまたかっこいい…)

残された蝦夷たちは「どうする?一人で行かせるのか?」と言い合いますが、クスコ は、オタケの気持ちをわかっているのですね。「いや、一人で行かせよう。オタケは 誰にも見せたくないんだ。妹を手にかける姿を…」(いい奴だよ、クスコ)
しかし、その後「イサシコには知らせるのか?」「いやだめだ」、ここまではいいけ ど、ヒトカには知らせようということになって、蝦夷たち、ヒトカに知らせに行って しまいます。
あなたたち、よく考えてごらんなさい。ヒトカはそんなことを聞いたら、我を忘れて アケシを助けに駆けつけて行ってしまいますよ。
現にそうなったようで、後にヒトカには悲惨な最期が待っているのです。。


蝦夷たちが立ち去り誰もいなくなった山の中。
鹿の精霊が現れ、踊りつつ通り過ぎていきます。
そして、上手端のオレンジ色の照明の中、シルエットで登場するオタケ。(ううう う、かっこいい…。この場面、音も好き)
気配を感じ、岩の後ろに隠れる。

そこへ、高麿がひとりで歩いてくる。
背後からすばやく忍び寄り、高麿ののどに刀をつきつけるオタケ。
「お前のほうから来るとはな。手間がはぶけたぜ…。よくも妹をたぶらかしてくれた な」(ああ、かっこいい…)
高麿が「オタケだったな。今知らせにいこうとしていたんだ。おぬしの妹は…」と言 いかけるのをさえぎって、オタケは高麿を突き飛ばして「どうしてだ!どうしてお前 達ヤマトは俺たちを騙す!目の見えない女をどこまで苦しめれば気がすむんだ!」 (正しくはこんな台詞じゃなかったとは思いますが、大意はこうかと。)

仲間には「裏切りは許せない。始末する」と言いながら、オタケはやっぱりアケシの ことが心配で哀れでたまらないんだろう。「可愛い妹がこれ以上ひどい目に合うくら いなら、他の奴にやられるくらいなら、俺がこの手でアケシを殺す。」というのがオ タケの本心かと。。思います。
高麿は「大和にも立派な人はいるんだ。もう戦は終わったんだ」とオタケを説得しよ うとしますが、怒りに燃えたオタケに通じるわけがない。
高麿の腕でオタケにかなうわけもなく(でも善戦してると思う。高麿、けっこう強い のね。だけど、オタケが高麿を問答無用で殺す気なら、最初にあっさりと殺せばよ かったのだから、アケシを信じたい思いもあったりで迷いがあったのではと思う)、 オタケが刀をふりかぶり高麿を手にかけようとしたそのとき。
白い鹿が現れます(映像)。

白い鹿!アラハバキの神の使い。
さっと刀を下ろし、片膝をつくオタケ。「この男を殺すなと…?」

そのとき、ほぉーぉおー…という呼び笛のような音(声?)が響きわたり、顔色の変 わるオタケ。
「やはり大和は鬼だ!」と怒りに満ちた咆哮を残しオタケは走り去っていく。

阿修羅のように

呆然とする高麿のもとに現れる謎の若者(吉野さん)。
「高麿さんよ。田村麻呂が帰ってきたぜ」
謎の若者が言うには、あの音は蝦夷が仲間の危険を知らせているのだと。江刺蝦夷が 問答無用で城にひきたてられ責められていると。田村麻呂がとうとう牙をむいたと。
そんなばかな!?なぜ?という高麿に「そりゃあ鉄の谷が江刺蝦夷の隠れ里だから さ!」と、謎の若者。
田村麻呂がそんなことを!信じられない思いの高麿に、謎の若者は強い口調で言い放 つ。
「嘘だと思うなら城に行ってみな!この世の地獄が見られるぜ」
慌てて走り去る高麿を見送り、謎の若者の歌になります。

蝦夷達は集まってきて言い合います。「ヒトカがつかまった!」
この間にセットが展開して、胆沢城内部へ。江刺蝦夷が大和の兵に責められている。
若者は歌いつづけます。人は誰でも疑いの心にとらわれれば鬼の顔をもつ。阿修羅の ように。と。
ここの、蝦夷たちを痛めつける大和の兵たちの表情がぞっとするほどです。目が狂っ てる。辛い場面です。黒斑(岩井さん)が痛めつけられる蝦夷に目をそむけるよう に、辛そうな表情で通り過ぎていきます。

謎の若者の歌が止まると、センター奥から、引きずられてくるのはヒトカ(藤本さん)。兵達に痛 めつけられ「鉄の谷のありかを吐け」と責められます。
謎の若者は、上手の端にて、黙って立っていますが、このときの若者の表情、目の色 の変化には釘付けになってしまいます。
悲しみ、苦しみ、憎しみ、怒り、さまざまな色が渦巻き、すさまじい迫力。

高麿が駆けつけてきて、拷問をやめさせようとしますが、兵達は「将軍のご命令で す」と言って聞こうとはしない。
それでも、「何かの間違いだ!縄を解け!」と命じて、なんとかヒトカを救い出す が、既にヒトカは虫の息。
ヒトカは高麿を認めると「アケシ!アケシは!?」
高麿が「大丈夫だ。」と教えると、少しほっとしたように「オタケが来る…気をつけ ろ。」と高麿に警告をするのでした。
オタケは大和を憎んでいる。大和を信じるな信じるなと口癖のように言っていた。
それに反して、ヒトカは大和と共存できる道を探していた。けれど…
ヒトカが最期に悟ったことは「正しかったのは…オタケだった…
最後までアケシをひたすら心配し、アケシのことを高麿に託して死んでいったヒト カ。

ヒトカの遺体が兵達に運ばれていくと、謎の若者が全身に怒りをたぎらせて、歌い始 める。高麿に向かって。
ここの若者、すごい迫力です。
高麿は呆然とした顔で若者を見つめつづけ…「おぬし、いったい…」
若者は答えて言う。

俺の名はアテルイ。この日高見の王と言われた…」
(このアテルイの台詞はすっご いエコーがかかり、背景には渦をまくような映像が投影されて幻想的な、この世なら ぬ雰囲気。)
アテルイ…悪路王!」と驚く高麿。

アテルイは諭すように高麿に語りかけ、ふっつりと姿を消す。
「上に立つものが道を誤ればこの世は地獄に変わる。何もかも他人まかせにしていれ ば知らず知らずのうちに地獄への道を進む。自分が正しいと思う道を行け。自分を信 じて。なっ」
ここのアテルイ、最後の「なっ」とかすかに笑うところが、なんというかアンバラン スでいい感じだと思う。アテルイは高麿の心を支配し命令するのではなく、後を託す と頼んでいる。
アテルイが姿を消した後には、高麿が描いた鬼の絵が。最初に出会った夜に謎の若者 にあげたあの絵。

奪えはしない/変貌

ひとり残された高麿は歌います。
「この空、日高見の空…緑の大地…」
この歌がなんとも切なく心に響き、胸をうつのです。
国は土地ではない。そこに住む人の心にある。
これは「火怨」では、蝦夷を裏切り朝廷側に奇襲を知らせようとした飛良手(アテル イの幼なじみで、長であるアテルイの父親の側近)がアテルイに見つかり、飛良手が 「どうせ、もうこの国は大和に征服されている。生まれ育った村を焼かれ親兄弟も殺 されたんだ。これ以上、抵抗してどうなるんだ」と訴えたのに対し、アテルイが言っ た言葉です。
たとえ土地が侵略されたとしても、もしもその土地を離れなければならなくなったと しても、大切なのは心にある。大切なものは蝦夷としての誇りなのだと。土地を守る ことだけが大事なのではないのだ。その誇りのために戦おうとしているのだと。

二幕の最初、イサシコは高麿に、「人は貧しくても生きていける。しかしさげすま れ、人として扱われなければ、心が死んでしまう。大和がこの地に住みたいなら住め ばよい。ただし蝦夷の誇りを奪わないでくれ。大和の神を押し付けないでくれ」と訴 えます。このときイサシコが歌う歌「エミシの誇り」には「日高見の大地は我らの 命」という歌詞が出てきて、さっき「土地ではない」って言ってたじゃないかと矛盾 を感じたものですが、イサシコが言う「日高見の大地」とは、この大地のそこかしこ に存在するアラハバキの神であったり、この大地に住む蝦夷の人々の心の象徴であっ たり…なんだな。と、今はそう思います。

高麿は歌う。
イサシコの言葉が胸につきささる。
力で土地を奪い、人を支配したとしても、けして民の心は動かない。
心を奪うことはできないのだと。

そのまま場面は田村麻呂との場面となります。さっきアテルイが去っていったセン ター奥に登場する田村麻呂(今さん)。
「蝦夷への弾圧をおやめください!そんなことをしても民の心は動きません!」と訴 える高麿に対し、田村麻呂は「高麿。何か勘違いをしているようだな。」
なにを??という顔の高麿に田村麻呂が言ったことは

蝦夷は人ではないぞ。

この田村麻呂の言葉は衝撃的。
このみちのくの大地を、蝦夷の暮らしを愛していたはずの田村麻呂。いったい何が変えたのだ。
都では田村麻呂を陥れる陰謀がすすんでいるという。都にひそませていた配下からの 知らせで急遽引き返してきたという。
内裏のやつらの鼻を明かし、帝の気持ちを翻させぬためには、鉄の谷を見つけ確固た る成果をあげるしかないのだ。そのために、あらえびすを刺激せぬよう秘密裡に探索 などと悠長なことをしている場合ではない。蝦夷は人ではないのだ。締め上げて場所 を吐かせろ!ここから無事に帰りたいのであれば、俺に逆らわぬことだ!

衝撃をうけた高麿は必死に訴えます。
(ふたりの歌対決。マイクいらないんじゃないかと思うくらいの声量のお二人ですの で、本当に迫力。さすがだ、ふたりとも。ここのメロディは「阿修羅のように」と同 じですよね?)
高麿は言い続けます。

ここはあなたが愛した蝦夷の里ではありませんか!
鈴鹿殿が私の屋敷に!
あなたには、蝦夷の血をひいた姫もおられるではありませんか!

田村麻呂の顔には多少の動揺が見られるのだけれども、ふりきるように田村麻呂は高 麿を叱責します。
「血迷うたか、高麿!そんな姫など・・・おらぬ!」

この瞬間、田村麻呂の全身にかぶって、鬼の顔が映し出されます。
ぞーっとするような一瞬。

光の音

屋敷に戻ってきて(という設定だと思う)私には何もできないのか!と嘆く高麿。 アケシが現れる。
誰が教えたのかアケシはヒトカが死んだことを知っていた。
「ヒトカが死んだのね…」
高麿がそうだと答えると、「私の姫も…」とアケシ。
さきほどの田村麻呂の様子から高麿はアケシの子が無事でいるとは思えない。
「おそらく生きてはいまい。」
さすがの高麿もアケシから顔をそむけ、つらそうな様子。
アケシは絶望にうちひしがれ、胸元の小刀をゆっくりと取り出す。
狂気めいた笑いを浮かべながら「架け橋…」とつぶやきながら、刀の鞘をとり、、、
自分の胸を刺そうと…アケシのただならぬ様子に高麿が気づき、小刀をとりあげると (気づくの遅いよ、高麿)アケシは「大和は鬼だ!」と叫び、泣き崩れます。

そこへ、源太が「だんなさまーっ!!たいへんです!」と走りこんでくる。
続けて大和兵たちが入ってきて、アケシを槍でおさえつける。
兵達は田村麻呂の命令でアケシを殺しにきたのだ。槍でアケシを殺そうとする兵達。
「やめろ!」と刀を抜き、兵達を倒す高麿。
おびえる兵達に向かって「帰って将軍様に伝えろ。安倍高麿は鬼の仲間にはならぬ と!」
驚いたのは源太。将軍様にたてつくなんて…
高麿はそんな源太に「お前は逃げろ」と言うが、源太は「ばかな主人を持った」と嘆 きながらも、ふたりを連れて逃げ道を案内します。

そして三人が姿を消した後。
オタケが静かに現れます。オタケは、少し前から様子窺ってたんだよね、きっと。
そこに大和兵たちが数人、高麿たちを追ってくるが、オタケはパシパシパシッと兵た ちをやっつけて(かっこいい〜!)、三人の後を追っていきます。

その後、なぜかアテルイがセンター奥から登場し、少し歌います。
アテルイの前で岩がががががと閉まり、場面は達谷窟へ。
(ああ、アテルイは岩を閉めるために登場したんだなぁ(^^;)
歌は「信じなければ」の一節でした。

達谷窟にたどりついた高麿、アケシ、源太の三人。
再び高麿は源太に「私と一緒に心中することはないんだ。お前には夢があるだろう」 と、ひとり逃れて都に帰るように勧めるのでした。
高麿はこれからどうするかと言うと、とりあえず今夜はここで休んで朝になったらア ケシを蝦夷のもとへ送っていくという。この達谷窟の奥に鉄の谷があると聞いて、驚 く源太。「だんなさま…鉄の谷のありかご存知だったんで…」この源太の台詞にはい ろんな感情がこもってますね。知ってたのに、教えてくれなかった。信用されてない んだ・・・
すまなかったと頭を下げる高麿。
源太はそれでも「今まで何もいいことなかったけど、いまさら他の主人に仕えるつも りはない」と言い、食べ物を探してきます。朝には戻るから…と言い残して谷を去っ て行きます。去る前に、源太はちょっとためらうように一瞬立ち止まってちょっとだ け振り向いて、走りさるのでした。ああ、やばい。と思わせる一瞬です。

二人きりになった高麿とアケシ。「こんなところに来なければよかったのに・・・」と いうアケシに、高麿は力強く「そんなことはない!」と言い切る。
ここに来たおかげで真実を知ることができてよかった。そしてアケシにも会えたと。
「でも、死ぬのね、二人とも。」とつぶやくアケシに対し、「いいや、そなたは生き るのだ。私のぶんまで生きてくれ。」と明るく力強く言う高麿。なんとかアケシを蝦 夷のもとに届けたら、高麿は自ら縛につくつもりでいる。逃げても追っ手が来るだろ うし、逃げて自分が姿を隠せば蝦夷にも源太にも迷惑がかかるだろう。

「戦がなければ、目が見えなくなることもなかったのに…」と悲しそうに言う高麿に 対して、アケシは「あんたの顔…」と高麿の顔に手をふれて、「見える…こうやって …あんたは優しい顔をしているのね…
アケシと高麿の心が触れ合っていきます。
ここで歌われる「光の音」、優しい温かい歌ですよね。
高麿はアケシに「鈴鹿、いや、アケシ」と初めて蝦夷でのアケシの名を呼びかけ、
私の子供を生んでくれ!
蝦夷と大和の血をひく子を。その子は大和でも蝦夷でもない、新しい人となって、そ の子孫が大和も蝦夷もない、戦のない世の中を作るのだと。
そして高麿とアケシはガシっと抱擁し、岩の影へと…(岩のセット閉じます)
鹿の精霊が現れ、踊りつつ通り過ぎてゆきます。

初見のときはちょっとぶっとんだこの場面。ちょっとあんたら、いつの間にっ!?い きなりそうくるか!(笑)
高麿さん。理想は立派だが、いきなりそれはどうかとー・・・・でも普通じゃない状況だ からね。その後何回か観るうちに、嘆き悲しむアケシを優しく抱きしめてやる高麿を 見ていると、、、高麿はアケシのことがたまらなく愛しくなったんだろうなぁと思っ たりもしました。
アケシは、男に愛されるというか、守ってやりたいと思わせるタイプの女なんだなと いう気がします。綺麗だし。。
ここの、顔に手で触れてというラブシーン(?)はなかなかいい感じで好きでした。
さて、その頃、田村麻呂は…


「逆賊、安倍高麿は達谷窟にあり。帝に逆らった逆賊を討つのだ!」と兵達に命令す る田村麻呂。
そして、かたわらには、うしろめたい様子でびくびくしながら、田村麻呂の様子をう かがう源太の姿が。源太に気づくと田村麻呂は、苦虫をかみつぶしたような顔をし て、源太にお金の袋(たぶん)を投げ、「よく、知らせた」

源太はかしこまって「ははっ。今後もなんなりとお申し付けください!!」
田村麻呂はそんな源太を横目で見ながら「ふん」っていう感じの態度で去っていきます。裏切って寝返ってきたものは、またいつか裏切る。それが道理だからね。
物陰からその様子を見ているイサシコの姿。怒りのオーラが感じられる。赤毛ではな くイサシコなのだ。
田村麻呂が去っていくと、イサシコは源太の前に姿をあらわし、「お手柄でしたな」。 こわいです、イサシコ。自らの保身と手柄のために主人を売って、高麿の居場所、そ してその奥に鉄の谷があることを田村麻呂に教えた源太をとがめているのだ。
赤毛が本当は江刺蝦夷の長であることを知らない源太は、「お、お前にとやかくいわれる筋合いはないんだ」と、こっそり小刀を抜 き、イサシコにきりつけようとしますが(無謀だよ、源太。さっさと逃げればよかっ たのに…)イサシコはそれをかわし、反対にその刀で源太を殺します。
「蝦夷は…卑怯なまねには我慢がならねえ!
イサシコ、かっこいい。でも源太、かわいそうです。ほんとに、高麿に仕えたばっか りにいいことのない人生だった。

この場面の途中から、「エミシの戦い」のコーラスがこだまのようにかぶって聞こえ、だんだんとそれが高まってきます。 源太が岩の向こうに倒れ、イサシコも姿を消すと、セットが開いてその向こうから、 オタケが現れます「エミシの戦い」の一節を歌いながら。(か、かっこいいぃぃ!)

ここは達谷窟。オタケは岩の影で眠っている高麿とアケシに静かにでも強い口調で 「起きろ!大和が来る…」と声をかけます。
慌てて飛び出してくる高麿。
オタケは、昨夜、ここから離れる源太の後をつけたのだ。そして源太が田村麻呂の屋 敷に入っていくのを見た。おそらくイサシコに連絡をとり、オタケは達谷窟に戻って きたのだと思う。アケシが心配で少し離れたところから、守っていたのではないかと …

オタケが「どうやらお前は売られたようだ。」と源太の裏切りを伝えると、高麿は 「源太が!」とショックを受けたようだが、それもしょうがないと思った様子。
「お前はこれからどうするんだ。」とオタケに聞かれ、高麿が「田村麻呂のもとへ行 き、おとなしく縛につく」と答えると、オタケは「そして、今度はお前が俺たちを売 るのか…?」
そのとき、アケシが現れて、「この人はそんな人じゃない…」
そのアケシを黙ってバシッとぶつオタケ
倒れながらもオタケの足にすがり「オタケ…疑いの目しか持たなければ本当の姿も見 えなくなってしまう…」と訴えるアケシ。
そんなアケシを黙ってみつめるオタケ。

高麿が逃げたのは、アケシを蝦夷のもとへ届けるためだ。ここでオタケにアケシを託 せば安心だ。自分は田村麻呂のもとへ行き、死ぬことになるだろうと。
オタケはすっと背中を向け、洞窟の入り口へと足を進めながら、「ついてこい。死ぬ のはいつでもできる…」(かっこいい〜…)

オタケはこの段階ではもう高麿のことを疑ってはいなくて、二人を鉄の谷に連れてか えるつもりで迎えに来たのだろう。だけど、ヒトカが死んだこと。そのことについて は、アケシをただそのまま受け入れることはできない。お前のために、ヒトカは死ん だ。それなのにお前は…。胸のうちの苦しみを飲み込んでの「ついてこい
地味な場面ではあるけど、とても好きな場面です。

生まれ変わったなら

鉄の谷。この作品中で一番好きな場面です。

高麿とアケシを連れて谷に戻ってくるオタケ。
さんざん大和にひどい目に合わされた直後、大和の人間が来たというだけでいきりた つ蝦夷たち。
高麿を信じるのかという蝦夷たちの議論を、階段に座って黙って聞いていたオタケが すっと立ち上がり、「疑いの目しか持たなければ、本当のことは見えない。こいつは アケシを救ってくれた。俺は受けた恩は忘れない。」(かっこいい…)
オタケの言葉にアケシははっとします。谷の入り口でアケシがオタケの足にすがり必 死に訴えていた同じ言葉です。
「だからこいつは谷にかくまう。文句があるやつは俺が相手だ」(か、かっこい い・・・)
オタケにそう言われて反対できる人はいませんね。

源太の裏切りによって、鉄の谷が達谷窟の奥にあることを知られてしまった。田村麻 呂の軍勢はすぐにでも攻めてくるだろう。ほとぼりが醒めるまで谷に隠れているか、 出ていって戦うか二つにひとつ。大和と蝦夷の共存をめざしていたヒトカはあんなに 無残に殺されたではないか。このまま隠れ、さげすみに耐え続けるのか。戦しかな い。

しかし高麿は「もう少し待ってくれ!」と言う。私は何も知らずにここへ来た。都の 人達はみちのくの真実を知らない。大和が蝦夷に何をしたのか、田村麻呂の非道なふ るまいも、都の人達に知らせたい。
高麿らしいまっすぐな考えだが、現実には、ここを出て行けば殺されるだけだ。
高麿にもそんなことはわかっている。

高麿は明るく語ります。「死んだら、この次は蝦夷に生まれてこよう。」
この土地に生まれ育って妻をめとり子を育て、またこの土地に帰っていく。
そういう普通の生活が奪われている今の世の中は間違っている。
この高麿の言葉を聞いているときのオタケの表情。かすかにはっとするようで、かす かに微笑みを含むようで、微妙な表情の変化。そのあと、オタケは、ちょっと笑って 「俺はヤマトの王がいい。俺ならこんな戦いはしない。他人の土地を奪うような…こ んな戦いはしない」
ここは日によって微妙に違ったりもしましたが、千秋楽は、ここのオタケの笑顔にや られ、こんな段階で涙だーだーになってしまいました。。そして、みんながそれぞれ 夢を語っているときの、悲しげな寂しげな、でも遠い夢を見るような、ちょっと暖か な目だったりかすかな微笑みだったり。

蝦夷たちはなぜ戦うのか。大和朝廷にさげすまれ人間扱いされないまま、戦わずして 負けることは、自分達が人間であったということを放棄してしまうに等しいから。 自分たちが今、戦わなければならないことは、避けられない運命であっても、死んで うまれかわったら、そのときは大和も蝦夷もない、戦のない世界で・・・死んでいっ たものたち、いずれ自分たちも死んでいき、風の荒野で骨になっても、その未来を待 ちつづけている

イサシコが歌いだし、オタケが歌い、もうこのへんからたいてい泣けてしまうんです けど、音楽高まって、踊りだすときのオタケの無邪気とも思える笑顔
ここがたまらんです。気づいていましたか。この作品中、オタケが笑顔を見せるの は、唯一、この場面だけなのですよ。(他の蝦夷たちについてもそれは言えるんじゃ ないかと思う。ごめん、他の人については断言できない。)

この場面にはいないアテルイのことですけれど。わたし、オタケの気持ちになって観 ているせいもあって、アテルイのことがとても好きなのね。
この場面でも、アテルイがみんなのそばにいるような気がする。
(現実に謎の若者(アテルイの魂)があの場に静かに存在していてもよかったんじゃ ないかと思うくらい。「俺の名はアテルイ」の場面で終わるのならともかく、その後 の岩を閉めるための(?)出番で終わるくらいなら、ここに出ててもいいじゃないか と思う)
彼らが語る未来を、一番夢見ていたのはアテルイじゃなかったのかと。

オタケが最後に高麿に言います。
「信じなければ何も変わらないとアテルイは言った。お前を信じてもおそらく何も変 わらないだろう。だが、死を恐れない男は嫌いじゃない。だからお前を信じてみるこ とにした。」
鉄の谷にいる蝦夷はみんなそうだと思うけれども、オタケは本当にアテルイのことが 好きで心の底から尊敬し、信じてたんだと。アテルイが死んでからも、いつもオタケ の心の中にはアテルイの存在があったと思う。
(火怨でいうと、オタケは飛良手に近い立場じゃなかったかとわたしは勝手に思って います。一幕の鉄の谷の場面で、台の上にアテルイ、下にオタケの二人背中合わせの 図がとても好きなわたしです。)
この最後の言葉をアテルイがあの場にいて聞いていてほしかったとわたしは思いま す。

オタケが去ったあと、二人残った高麿とアケシ。高麿はアケシに笑顔を向ける。 暗転。

都へ!

太鼓の音が響き、達谷窟に攻め入る田村麻呂の大和朝廷軍。
(たしか、緞帳かわりの絵(ねぶたの絵のような)が下りて、その前を大和朝廷軍の 槍隊が走り回るという図だったかと)
絵が上がると、達谷窟(のどこかの岩場なんだろう)を槍隊が取り巻いている。岩場 の上に現れる高麿。兵達に向かって「話を聞いてくれ。戦うつもりはないんだ!」と 訴えていますが、当然のことながら兵達は聞く耳持ちません。相手は「逆賊、安倍高 麿」ですから。

客席通路から、弓を手にしたクスコヤイラが高麿を助けにきます。(おお、かっこ いい!)そうこうしているうちに、上手側からはオタケが。高麿の側に駆け上がり、 兵達を相手にするオタケ。(かっこいい〜!)
イサシコも登場し、入り乱れての戦闘。
ここでイサシコとオタケのソロ歌が。かっこいいです。
このあと戦いながら蝦夷たちはいったん去っていくのだったかな。
そんな中、あやうくやられそうになっている高麿を助けに駆け寄ってくる人。黒斑 (岩井さん)。
「このときを待っていた!今こそ蝦夷としての戦いを!」というようなことを叫び、 戦いに身を投じて蝦夷として死んでいきます。最初の頃はそのとってつけたような展 開に「おお?」って集中力がとぎれたりしましたが、後半に観たときにはそんなこと はなく、岩井さん、うまくなりましたねぇぇ。しみじみ。見慣れたせいだけじゃなく (だいたい一週間もあいてたら慣れるどころか忘れるって)、うまくなったとそう思 いました。じつはこの方の出演した「黄金バット2006」もわたしは観たのですが、あ のときと比べすごい成長ぶりだと思いました。
大和に恭順したふりをしてはいても、心は蝦夷だったのですね、黒斑。そういえば同 じような立場だった青蛙はどうしたのだろう?

そして、アラカオヤイラキクリクスコイサシコオタケ。蝦夷の戦いがひと りづつ描かれます。(こういうところ、劇団☆新感線みたいだな) 。このあたりか ら雪が降ってきます。
蝦夷たちひとりづつ見せ場となっていて、ここでとくに目をひくのがクスコ(武智さ ん)。重力を感じさせないあの連続片手側転、素晴らしく敏捷な動き。大和兵を一人 残らずやっつけてしまったのに、飛んできた槍にやられてしまう。あんまりじゃない かーっ。 クスコは最後に、イサシコに「高麿を死なすなーっ!!」と叫んで死んで いきます。
イサシコ(駒田さん)は、ロープと分銅使いで歌いながら勝負。渋いっ。蝦夷は奴隷 の道を選ばない!と死んでいく。
ここで音楽がピシっと終わるんです。

そして、打楽器の音だけになり、下手奥から敵兵達を引き連れたオタケが登場する。胸の動悸が高まります。初見の とき、「ああ!真打ち登場!」って思いました。
オタケは強いのです。雪が降りしきる中、左右の手に持つ双刀を駆使したものすごいスピードと迫 力の刀さばき、蹴りも入れつつ、敵をばったばったと切り倒していきます。わたしは この場面は、手に汗握り、瞬きも忘れ見入ってしまいます。息もとまっているかもし れません。
しかし、オタケは次から次から出てくる槍隊に最後にはやられてしまいます。あんな に強いのに…やられてしまうの。
二幕の最初にある御伽草子で、大嶽丸のやられるシーンが描かれますが、そこと同じ やられ方です。
オタケーッ!」と高麿が叫ぶ声に、オタケは瀕死の状態で立ち上がって高麿を探し て、高麿に「都へ…」と声をかけて倒れ、死んでいくのです。

アラカオ、ヤイラ、キクリ、クスコ、イサシコ、そしてオタケ。
この場面は、それぞれの人の特徴を生かした殺陣がついてますが、みなさんほんとに すごいです。唯一歌のある駒田さん、千秋楽に観たとき、ここのイサシコ、ものすっ ごくかっこいい!と思った。
殺陣は、最初の頃はただただ迫力に圧倒されて見ているのですが、ものすごいことし てるなぁってほとほと感心する。メインキャストのみなさんはもちろんのこと、殺陣 の相手は若手メンバーなわけで、たぶん殺陣なんか初めてという人もいたと思う。大 勢出ているところはそういう人もいただろうけど、なかでもアクションの出来る人が 芯のところには起用されてるんだと思います。個別に誰が誰とまでは最後までわかり ませんでしたが、すごいと思ったのが、クスコ・武智さんの、倒れた槍隊の人の槍を 空中で片手で持って、そこを支点にした側転。下で支えている槍隊の人がちゃんと武 智さんの体を足で支えて押し出してました。あと、イサシコの分銅の武器によって槍 を取られる人。それから、オタケのすさまじい殺陣の相手をする人は全員すごいと思 うけど、とくにうずくまって平澤さんのジャンプの台になる人、腕を絡めて回転させ る人、背中の上でぐるんと回転させる人とか。オタケはパシッって槍を踏んだりもし ます。一度この場面でオタケが刀を一本落としてしまったときがありましたが(あ あっ!て思いました)、それでも不自然なく殺陣が成立したのもすごかったですね。 オタケったら、片方、素手で戦ってましたが。
うまく文章で表現できませんが、この場面はほんとにすごかった。青あざも絶えな かったことと思いますが、若手キャストのみなさんにも拍手を贈りたいです。

蝦夷たちが全員やられてしまい、後にひとり残った高麿
田村麻呂が登場し、「どうだ?逆賊になった気分は?」うーわ、嫌なやつ。
今ならまだ間に合う。鉄の谷に案内し、汚名をそそいだらどうだ?と囁く田村麻呂に 対し、高麿はあわれむように、「悲しい人だ…」
陰謀、出世、権力、疑心暗鬼。そんなものにとらわれ、大切なものを見失っている。 鬼は己の心が作り出すもの。
高麿の背後にアテルイの亡霊(映像)が現れ、高麿の声、動きとシンクロし、大和の 兵達を倒していく。(この殺陣(スローモーションの動き)は、2幕の御伽草子で描 かれた悪路王の最期と同じ絵ですね、おそらく)
その様子を見ている田村麻呂の顔がだんだんとゆがみ、それをふりはらうがごとく 「黙れ黙れー!!」と岩場に駆け上って高麿に斬り付ける田村麻呂。
倒れても高麿は、アテルイの魂とともに訴え続ける。ここの高麿の歌は鬼気迫るもの があり、胸につきささります。
大和がわれらに何をしたのか。
何がこの日ノ本の礎か。
生まれ変わり死に変わり、この日高見の大地と共に。
この国の行く末、見届けようぞ!!

高麿は田村麻呂に討たれ、その首は逆賊の首として高く掲げられます。
「逆賊の首、討ち取ったり!!」
誇らしげな大和軍の雄たけびとともに音楽盛り上がって暗転。

明るくなると、死んだ蝦夷たちが倒れていた同じ場所同じポーズで、黒服の亡霊たち が。彼らは立ち上がり、そして語ります。
この翌年、大和朝廷は、この戦のおろかしさを悟り、ついにみちのくへの出兵を断 念。大和が夢見た鉄の谷は幻のままとなった。


誰もいなくなった岩場。子守唄が聞こえ、アケシがひとり現れる。
アケシの腕には赤ん坊が抱かれている。
あんたの父さん、弱い蝦夷をあわれんで、強い大和にはむかって…
光の音を聞かせてくれた…
そんな子守唄をこどもに聞かせながら、アケシは一歩づつ石段を上がり、語ります。
高麿・・男達の戦いは終わったけれども、私の戦いはこれから始まる…
そして「光の音」を歌います。
悲しくも強く、そして希望と決意と愛に満ちたアケシの歌。
明けない夜はない、満ちていく、光の音が…。

カーテンコール

暗転から明るくなると、本編の余韻の残る中、全キャストが舞台に並んでお辞儀のご 挨拶。(たくさんおられるので、前後が入れ替わってご挨拶。)拍手〜!!
駒田さんがミュージシャンのみなさんをいろんな名前(「AKUROバンド」とか「なん とかかんとか(全然覚えてない(^^;)ハーモニーオーケストラ」とか…日替わりだっ たようです)で呼んで、ミュージシャンのみなさんが下手側から、持ってこられる方 はそれぞれの楽器(の一部など)を持って登場し、ご挨拶。拍手〜!!
ミュージシャンのみなさんが退場されると、キャストのみなさんはお隣の方と手をつ ないで、手をあげてお辞儀のご挨拶。またまた拍手〜!!
そして全員で「生まれ変わり死に変わり…この日高見の大地とともに…」というコー ラス。その音楽続く中、みなさん手を振ったりして去っていかれます。
平澤さんは、(千秋楽以外は)ずっとオタケのクールな表情のまま、みんなが手を ふって去っていかれるときも、手は振らずに客席にビシっと頭を下げ、クールに去っ ていかれました。最後までオタケでした(千秋楽以外)。かっこよかったな…
ミュージシャンの方を迎えるときだけ、かすかににこっとしてらしたです。素 敵ー!!(…ファンだからなぁ(笑))

たいてい、これだけで終わるはずもなく、カーテンコールは普通で3回?普通じゃな いとき(笑)は4回?千秋楽はもっと?あったんじゃないかな。わたしが観た回は (全部だったかどうかは忘れたけどほとんどの回が)客席スタンディングオベーショ ンでした。この渾身の舞台、スタンディングオベーションしたくなりますよ。ほん と。。。

千秋楽のカーテンコールは、昼の部もちょっと千秋楽バージョンでした。昼夜とも、キャ ストがぬいぐるみ?などが入った袋を客席に投げ、キャスト・ミュージシャン全員への客席からの花束 贈呈と、主だったキャストのみなさんから一言ご挨拶がありました。花束贈呈に ちょっと時間がかかったためなんとなくだらだらした雰囲気になってしまいました が、その後の駒田さんの仕切りによるキャスト紹介が絶妙の面白さだったので、雰囲 気は盛り返しました。(でもあの花束贈呈に要した時間で若手キャスト含め全員の名前を紹介、ひとこと(名前だけでも)言わせてあげればよかったのに…と思ってしまった。キャストのみなさんは個人的に花をもらうほうがうれしいのかなあ?)
昼の部は、主なキャ スト(チラシ表の6人)からひとことコメントが。さすがにもう1公演あるので、そ ういうコメントをするキャストが多かった。
平澤さんも、ひとこと「あと一回がんばります!」とい うシンプルなもので、オタケのクールな雰囲気そのままでした。

夜公演は、花束贈呈までは同じでしたが、キャスト紹介は全員でした。若手キャスト はリーダーの田丸裕一朗さんを中心に20名という形での紹介、他全員の名前と、川 本さん、藤本さん、西村さん、丹きらりちゃん、とメインキャスト6名はコメントつ き。

平澤さんのコメントなんですが、駒田さんから「僕と同い年、平澤 智!」と紹介されて(なんとなく客席が「ええっ同い年ッ!マジッ!?」という雰囲気になってたような(笑))、一歩前に出た平澤さん。
さあ、クールなオタケが何を言うのかな・・・と固唾を飲んで見守る客席。
そこで、平澤さんはひとこと。

シンジラレナ〜イ!

もうばか受け(笑)
ある意味、タイムリーなネタでしたね。つい最近、日本一を決めた日本ハムのヒルマ ン監督の真似でした。
でも平澤さん、ちょっと最後の伸ばしが足りなかったのでは?(笑)
このあと平澤さん、お隣の西村さん福永さんと「ヒルマン?」「ヒルマン監督だよ」とかってボソボソ私語(笑)をしていて、駒田先生に「そこ何しゃべってんのっ」って怒ら れてました(笑)
先生、すみません!って感じでしたが、「反省会です」ってことでした(笑)
今回初めて平澤さんを知って、シリアスでクールなオタケに「きゃー素敵〜!!」っ てなってたのにイメージ壊れた人いませんか?大丈夫でしょうか?(笑)
そのあと、 坂元さんのご挨拶のとき、思わずニカッと白い歯を見せて笑っていたのが見られてうれしかった(^^)肩ふるわせて笑ってらっしゃいましたよ。坂元さん、 ありがとう(笑)

駒田さんは「何が信じられないのが打ち上げで聞いておきます」って言っておられま したが、聞いたのかな?とくに深い意味はないと思いますよ、駒田さん(笑)

昼夜どっちの回か忘れましたが(両方だったかもしれないが)駒田さんが平澤さんを 紹介するときに、「TS最多出演」という言葉があり、そういえばそうか!と改めて思 いました。TSができたときからずっと、いまや唯一のTS所属俳優だから当然といえば 当然なんですけど、「砂の戦士たち」の後、去年までの3年間3作品(タン・ビエット の唄、タック、風を結んで)、平澤さんのTS出演がなかったせいで、ひょっとしてこ こ数年の「TSファン」の方々は平澤さんのこと知らない人いたんじゃないの〜?TSと いえば平澤さんだったのよ、昔は。。(笑)

そのほか挨拶で印象に残っていることなど。順不同です。
駒田さん。急に「僕は駒田一というんですが・・・」って淡々と自己紹介を始めたのが おかしかった。この前までやっていたダンスオブヴァンパイアのせいか、雪を見ると 血が騒ぐ(掃除をしたくなる)とか、特殊メイクづいているとか(笑)

今さん。「風を結んで」のときも言ってらしたけど、TSの舞台が楽しくてたまらない みたいですよね(笑)。またぜひ、今度はコメディに出たいとかおっしゃっておられ ました。ひょっとして今さん、「ミス再婚」出たかったですか?(笑)今度の 「Mr.PINSTRIPE」ではどんな姿を拝見できるのか楽しみにしてます。 昼の部のときに、「今日は誕生日なんです!」とおっしゃるので、「あら今さん今日 誕生日なの?」って思ったのですが、客席のそういう空気を察したかのように、端に いる丹きらりちゃんのところまで行って「僕じゃなくて、わが娘の!」と言っておら れました。本編での憎たらしい(笑)田村麻呂の顔とはうってかわってとても優しい 顔をしてらしたです。
そのきらりちゃんは、彩輝さんに教えてもらって「ありがとうございました」って挨 拶してましたね。

藤本さん。今回急にキャスティングされたことで、誰よりもたいへんだったんじゃな いかと思いますが、「一所懸命やること」をあらためて学んだとのことでした。
川本さん。演出助手、たいへんだったみたい。ほんとお疲れさまでした。
西村さん。「ふたつ言いたいことがあります。」とおっしゃって、「はじめさん、よ くも殺してくれましたね。ケンジ、裏切ってごめんね!」でしたっけ。

吉野さん。TSの、というか謝先生の演出振付の舞台に初めて出たのが10年前(1996年 「シーソー」再演)で、今回20名の若手キャストを見ていて、初心に返る思いだった とのこと。そうそう、今回の謎の若者(アテルイ)を見ていると、なんとなくあの頃 の吉野さんを思い出す気分になりました。今までに観た吉野さんの役では一番好きで すね、今回のアテルイ。

彩輝さん。さすがは元宝塚トップスター、とてもちゃんとした挨拶をしてらしたとい う印象だったのですが、内容まで思い出せない…。この舞台に出られて幸せでしたと かそんな感じだったかな?

最後に坂元さん。昼の部のときは、駒田さんから「桃太郎役の・・・」って紹介され て、「チラシと衣裳が全然違うので驚かれた方もおられると思いますが・・・」と続け ておられたと。
夜の部では、駒田さんからは普通に「坂元健児」と紹介され、ご自分で「公演が始 まってから桃太郎、桃太郎と言われ続け、桃の差し入れもたくさんいただきました。」 でした。真顔でたんたんと言われるもんだから、よけいにツボにはまっておかしかったで す。クールなオタケも肩をふるわして笑っておられました(笑)

それにしても...桃の差し入れ…おもしろすぎるぅ。
そういえば、「砂の戦士たち」のときも、劇中で「足がくさい」役だったので、消臭 剤の差し入れがいっぱいあったんですよね(笑)あのときも「僕の足はくさくありません」って千秋楽の挨拶で言っておられました(笑)
桃太郎以外のこともきっと言っておられたと思うのですが、あまりに 「桃太郎」が面白かったので他の内容を忘れてしまった・・・(笑)

とにかく、盛り上がってとっても楽しいカーテンコールでした。

わたしの報告はこれで終わりです。
あらためまして、キャスト、ミュージシャン、そしてスタッフの皆様、本当にお疲れ さまでした。素敵な舞台を本当に本当にありがとうございました。この舞台を観るこ とができてとてもとても幸せでした。
そして、このなが〜い解説&感想を全編書き終えたわたしもお疲れさま(笑)
広い心で(笑)全部読んでくださった方にも、ありがとうございました。

一幕へ

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