T.S MUSICAL FOUNDATION ORIGINAL MUSICAL
文京シビックホール大ホールオープニングイベント

YESTERDAY IS…HERE

一生に一度光り輝く瞬間 人は天使に近づく


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【スタッフ】
作・演出・振付:謝珠栄●脚本:正塚晴彦●音楽:玉麻尚一●作詞:大場公之●
美術:和田平介●照明:塚本悟●音響:山中洋一●舞台監督:古茂田健二●
助手:中村さち恵●企画・製作:TS Musical Foundation●
主催:(財)文京区地域・文化振興公社●共催:TS Musical Foundation● 後援:文京区・文京区教育委員会●

【日程】
文京シビックホール大ホール 2000.4.14

【キャスト】
タック:平沢智●ジョー:山野史人●ミュー:竹内千奈津●
スムース:萩原好峰●スピード:福永吉洋●スカンク:三阪賢●
青年:川本昭彦●ウクレレ:坂田今日子●マーティン:野口真佐代●
チャム:中田由記●ブルーシィー:須崎美穂●マンボ:法月志都子●
ドゥードゥル:長尾純子●ディンク:渡部照代●ピッピ:小嶋亜衣●
バーディー:阿部義嗣●

【演奏】
piano:玉麻尚一



タックと少年少女達「つかめ!この手に夢を!」
タックと少年少女達「つかめ!この手に夢を!」
STORY

古き良き時代のアメリカ。
"サイレントジョー"と呼ばれる老人は、ふとしたことで知り合った青年に、 ある男の物語を話して聞かせる。

男の名は"タック"(平沢智)。
彼はある日ふらりと町へ現れ、不良少年達や言葉を失くした少女"ミュー"(竹内千奈津)と出会い、彼らと心を 通わせる。
ストリートボクサーに挑戦していくタックとのふれあいの中でミューは次第に言葉を取り戻して ゆくが、突如タックは彼らの前から姿を消してしまう。
タックはなぜ何も告げずに立ち去ったのか。
彼は何者だったのか。


MUSICAL NUMBER

ACT1
OVERTURE●GOSPEL CHOIR●ゆっくり歩こう〜ドジなNEW COMER●何の為に生まれてきたか●MY NAME●言葉はなくても●ICE CREAM MAN●ディックトレイシー現る●HOW TO BOXING●アレキサンダーラグタイムバンド〜成せば成る●

ACT2
ENTRACT●愛が胸にあれば●町の人気者●一家離散●試合を重ねて●I'M ANGEL●ホントのホント●ハードトレーニング●優しさも愛することも●

町の人気者チャンピオン・タック
町の人気者チャンピオン・タック



予想できていたことですが、やはり号泣してしまいました。
「Yesterday Is...Here」で語られるメッセージは、ひねてしまった大人にはストレートすぎて恥ずかしいくらい、ホントに青くてストレートなのだけど、語られる言葉は何の抵抗もなくするりと心に入り込んで、わたしの心をざっくりと掴んで離しません。心の中心に何本も突き刺さった矢のように、今も胸が痛く、熱い。そしてそれはそのままわたしのからだの一部になるのでしょう。

タックは天使。星屑の中で三日月に腰をおろすタックが見えるような気がした。ホントに天使だったな。平沢さんのタック。けして技術的にすごくうまいわけじゃない平沢さんの歌がこんなに心を打つのは、タックとして、タックの思いを歌に乗せているからだと思います。
ラストシーンのブルーの照明の中で座っているタック、あの場面が好きで…そして心優しきボクサーの歌を歌うミューの澄んだ歌声…今も思い出すだけで泣けてきてしまいます。ああ、だめだ。またあらためて書きます。今日のところはこれで。

…と、以上が東京から帰ってきた夜に伝言板に書いた感想ですが、あらためて読むとこっぱずかしいですね(^^;でも、素直な気持ちです。

やっぱり好き…この作品。やはりわたしにとって、平沢さん出演作のベスト1。これは不動です。
平沢さんのタック。生きる意味に迷って天から地上へ落とされてしまった天使。ミューの笑顔が見たくて一所懸命なタック、いつか君とたくさん話をしよう、そのためにならどんなことでも…。
タックの語る言葉は、本当にストレートです。
-しゃべれなくてもひとりぼっちでも、苦しんだりいじめられるために生まれてきたわけじゃない。人よりつらいことをたくさん知ってるから、うれしいときはずっとうれしいんだ。
-思いつづければいつかきっとかなうんだ。中途半端じゃなくって一生懸命思って、一生懸命生きてればきっと。
-夢っていうのは一生懸命に生きた褒美なんだ。がんばるだけじゃつらいから、楽しいことだってあるんだ。
最初はかたくなだった少年達もそんなタックと心が通じ合うようになる。タックの一途な姿に打たれ、ミューのためにと願うタックのために協力するようになる。
2幕で、心をとざしたミューを思って落ち込むタックを説得する少年達の「ホントのホント」から「ハードトレーニング」そして最後の試合、ラストまでは息を抜く間もなく、タック、少年達、ミュー、それぞれの思いがあふれて胸が苦しい…。

ここからはラストの展開をはっきり書いています。未見の方で知りたくない方はこの先を読まないでください。


恐ろしく強い相手とのいつ終わるとも知れない試合。打たれても打たれても立ちあがれるのが不思議なくらいのタックを支えているのは心の力だった。何も変わらなくても全てが無駄に終わっても、俺は俺のできることを精一杯やる…。
身体も精神も打ちのめされ、気力だけで戦うタック。誰かの声が聞こえる…ああ、誰かが呼んでいる、誰かが俺の名を呼んでいる。あれはミュー…。ミューが何かを叫んでいる。
タック、死んじゃいや。生きていて…。ミュー…俺は明日を信じて誰かと触れ合って生きていたい。何も変わらなくても、どんな苦しみを抱えていても生きていることはすばらしい。極限状態の中でタックが悟ったそれこそが生きることの答え、命の答え。それを知ったとき、タックは天に帰る許しを得、力を得る。天に帰るときが来た。なのに…なぜ今なんだ!!俺がいなくなればミューは・・・・

気がつくと試合は終わっていた。勝ったらしい。
しかし、力を使い果たし、変わり果てた老人の姿になってしまったタックは去るときが来た…と悟る。いなくなったタックを懸命に探す少年達。 ミューだけは姿が変わってもタックのことがわかるんですね。それは彼女はタックと心で話していたから。。 これからは自分の力で生きていくんだ、一所懸命生きればいつかきっと光り輝くときが来る。タックはミューに語り、ミューはタックの分も二人分生きると約束する。

それ以後タックの姿を見たものは誰もいない。タックはふらりと現れ、少年達の心に何かを残し、ふっと去っていった。
少年達は二度と世をすねたり絶望したりしなかった、このことこそがタックとの友情の証だった。ミューだけはタックが何者なのか理解していた。しかしそれは語られることはなかった。その代わりミューは才能を開かせ、心優しきボクサーの歌を作った。 タックは…あのまま死んでしまったかもしれないし、今もどこかで空を見上げているかもしれない。 少年達に何かを語ることができ、ミューは言葉を取り戻した。その思い出は消えない。タックにとってはそれで充分だった。人間であれ天使であれ、できることはそう変わるもんじゃない。命の意味が変わらないように。
あのとき飛び立てなくても、生きる喜びを忘れなければ、タックはいつか天に帰れる。魂を解き放って…。

語り終え、ジョーは静かに息を引き取る。その手からこぼれ落ちたものは「ミュー」と名を刻んだハーモニカ。タックの初めての試合で得たお金でみんなでミューに贈ったあのハーモニカ。…タック?
ジョーの魂が羽ばたく音が聞こえる…。

ラストシーン。
セットはけると、ブルーの照明の中、顔を伏せて座り込んでいたタックが顔をあげる。ミューの歌う「優しさも愛することも」。心優しきボクサーを歌った歌です。途中でタックとのデュエットになります。竹内さんの澄んだ歌声と平沢さんの優しい歌声が心打ちます。

ミューはこの作品中ほとんど声を発することがないのですね。だから最後の試合中に聞こえるミューの声は、絶大なる効果。わたしはこのミューの声が聞こえた瞬間、最後の砦が壊れた感じでした。あとはなすすべなく涙に身をまかせるしかなかった。

正塚晴彦氏の脚本、謝先生の演出振付が素晴らしいことは二年前の公演の感想にも書きましたが、今回もそれは変わらず(少し手を入れられて、よりこなれた感じでした)、加えて役者のみなさんのお芝居がとってもよくなったと思いました。とくにめざましい成長…と思ったのがジョーの話を聞く青年、川本さん。今回はしっくり彼の気持ちも伝わってきました。前回なぜここでこの話が出てくるのだろう?とかちょっと思ってしまったおばあちゃんの話も、今回はしっくりと。
平沢さんのお芝居、ホントによくなりました。「忘れモノ探しモノ」のときも思いましたが、再演ものだととくに顕著です。わたしは平沢さんのファンだから、わたしがいくらほめてもあんまり説得力ないかもしれないけど…《2000.4.22》


何も変わらなくても
どんな苦しみを抱えていても
生きている事だけで
素晴らしい事なんだ。
俺がここに生きている。
精一杯生きている。
それが命の答えなんだ。

タック タック
(平沢智)



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